エンジニア集団の中でバックオフィスを担当している有田です。技術系のブログが多い中、毛色の違う話をさせてもらいます。 2020年1月に国内でコロナ感染者が初めて確認されてから3年目を迎えようとしています。社会、個人、企業等は様々な苦難を強いられてきました。その間、事業の継続が難しくなった企業が多くあります。 得意先の事業継続が困難との情報が入った後の処理を私の経験を踏まえ書いてみます。
取引先に関する情報の収集
「破綻」「倒産」といっても、「資金繰りの悪化」「期日に入金がない」「取引先の代理人から債務整理の受任通知が届いた」「裁判所から破産手続開始決定通知書が届いた」など状況は様々です。取引先と連絡が出来る場合は状況を確認します。実際に会社に赴いて、営業を継続しているか確認します。私の経験上、取引先に連絡をしても「わからない」「担当者が不在」と言われることがほとんどでした。取引先の代理人、破産管財人に連絡しても詳しい状況は確認できませんでした。倒産した事実が確定したといったところでしょうか。
自社の債権・債務の確認
可能な限り債権回収を実現するため、自社と取引先との契約内容、自社が有する債権の種類、履行期、金額、担保・保証人の有無、自社の取引先に対する債務の有無等確認します。この確認は債権者が提出する「債権届書」に記載する必要があるので速やかに確認します。債権債務の証拠書類(発注書控え、納品書控え、受領書等)と総勘定元帳を突合します。
債権回収方法の検討
① 担保権の実行による債権回収 a) 貸付債権に関して、取引先が有する不動産に抵当権を設定しているような場合には、抵当権を実行することによって債権を回収することができます。実際には金融機関が上位に抵当権を設定しているので回収できるかは微妙な所です。 b) 動産の先取特権がある動産売買(例:自社で製造して、問屋や小売店に売った製品)であれば、これらが相手の手元や倉庫にある場合は、差し押さえをして競売にかけることができます。債務者が商品を転売していた場合は、「物上代位」があります。債務者が転売先に商品を売って得る予定の代金を受け渡し前に差し押さえて、そこから債権を回収します。しかし実務的には結構面倒です。差押えは自社単独でできないので裁判所の執行官が対象物を差し押さえる必要があります。時間と労力がかかり、債権を速やかに回収できない難点があります。 漫画の「ナニワ金融道」のようにはいきません。
② 相殺による債権回収 破綻した取引先に対して、買掛金などの債務を負担している場合には、お互いの債権債務を対当額で相殺することによって、代金債権の支払いを受けたと同様の効果を得ることができます。相殺通知書を配達証明付内容証明郵便で送付します。
取引先が破綻手続きを申立てた場合
破産手続きとは、会社が支払不能や債務超過に陥って経営が立ち行かなくなった場合に、裁判所に破産の申立てを行い、会社財産の財産の精算を行う手続きです。企業倒産の情報は取引先の代理人から債務整理の受任通知が届く、あるいは裁判所から破産手続開始決定通知書が届く場合がほとんどです。社会的に問題を起こした会社ならある程度予想ができるかもしれませんが、通常は込み入った情報を得るのは難しいです。
取引先の代理人から債務整理の受任通知が届いたら、債務者との交渉は一切できなくなります。この通知書を発送してもらった取引先はノンバンク系の会社からかなりの負債を負っていて、取立ての催促から逃れるために弁護士に依頼します。会社規模が小さい零細企業がほとんどでした。通知を受け取った後は、弁護士を通じて債権債務状況の書類作成(債権届出書)等を行い指示に従っていきます。会社としては、まだ破綻したわけではないけど債権回収ができない状態になります。その後、任意整理、自己破産又は民事再生の処置がとられます。
裁判所から破産手続開始決定通知書が届いた場合は、会社の財産の管理処分権は、すべて裁判所が選任した破産管財人に移り、破産管財人は、すべての会社財産を処分し、換金した資金から債権者に対して配当を実施します。ここでも債権届出書を作成します。先ず、優先的破産債権者に対して配当がされ、その上で余剰があれば、一般の破産債権者に対して配当がされます。優先的破産債権とは、1.公租(国税・地方税)の請求権 2.公課(社会保険料等)の請求権 3.共益費用(電気、ガス、水道代)の請求権 4.雇用関係(給料)の請求権等があります。破綻する企業は資金繰りが破綻している場合がほとんどで優先的破産債権が配当された後は余剰金が少ない場合がほとんどです。前職では数千万単位の債権があるのに配当が1万円~3万円ということが幾度とありました。「債権届書」を記載するために可能な限り根拠となる資料を回収し、債権届書を債権届出期間内に提出しなければなりません。この労力に対する配当が数万円とは涙が出てきます。
今の会社では約束手形による売掛金回収はありませんが、取引先が破綻したら、銀行に取立てや割引に出していた手形が不渡手形として戻ってきます。回収された不渡手形には「この手形本日提示されましたが資金不足につき支払い致しかねます」と書かれた付箋が付いていて、債権届出書と一緒に提出します。
このように取引先が倒産した場合、債権回収には煩雑な事務処理が発生します。労力の割に債権が全額回収されることはまずありません。取引先が多くなると債権額が大きい会社に目が行きがちですが、債権が数百円でも期日通りに支払われなかった場合は速やかに相手側に連絡を取り支払日の確約を得ることは売掛金回収業務では必須です。
得意先の状況把握は、近年では社会情勢を踏まえ直接取引先を訪問する機会が減っているとはいえ、情報収集を怠らないようにしたいものです。
簡単ではありますが得意先が破綻した場合の債権回収についての話はここまでとします。