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オルターブースのクラウドネイティブ特化型ブログです。

組織にAIを迎えるために(続・生成AIについて思うこと)

オルターブースの木本です。
サンフランシスコで開催されたMicrosoft Ignite 2025から早くも1か月が経とうとしています。
オフラインのRecapイベントも終え、Igniteの話題も一巡したこのタイミングで、改めて感じたことをまとめてみようと思います。
内容的には1年前に書いた「生成AIについて思うこと」という記事の続編という位置づけです。

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この記事はオルターブース Advent Calendar 2025の12日目の記事です。

adventar.org



すべての従業員にAIアシスタントを

2025年のMicrosoft Igniteで繰り返し語られたキーメッセージに「Empowering every employee with an AI assistant(すべての従業員にAIアシスタントを提供し、能力を強化する)」があります。 これは、AIが一部の専門家だけのツールという段階を終え、すべての従業員が日常的にAIを使う時代に入ったことを宣言するものです。

「すでになんらかのAIツールが組織で導入されていますよね」という前提に立った上での宣言のように見えますが、実際にはどうでしょうか。
AIを大々的に導入したと発表する企業も増えていますが、まだまだ部分導入にも至っていない企業があるというのも現実です。
個人的な観測範囲だけの話で恐縮ですが、僕の知人(ITエンジニア)は職場でのAIツール利用が認められていないと嘆いていました。


企業で行われがちな生成AI導入検討の問題点

ここ数年、様々な企業で生成AIの導入が急速に進んでおり、その流れの中では「生成AI導入に関する検討・PoC」が行われていると思います。
職業柄、公私問わずにAIに関する相談を受けることがありますが、よく耳にするのは「導入検討がIT部門だけで行われている」という話です。
このブログを読んでくださっている中にも、実際に企業のIT部門で生成AI導入に関する検討を行った・行っているという方も多いのではないかと想像するのですが、以下のような会話に終始していないでしょうか。

  • どのモデルを採用するべきだろうか?
  • 送信されたデータは生成AIの学習材料になるのではないか?
  • ITリテラシーの低い従業員の教育をどうすればいいか?
  • 生成AIを使う上でどのようなガードレールを設けるべきか?
  • 運用コストを抑えるにはどう使えばいいのか?

上記の課題をクリアすることはとても重要で、それこそがIT部門やITエンジニアの役割であるということは否定しません。
しかし、このアプローチでは 「誰が何を目的にしてどのように使うか」という本質から遠ざかり、むしろ「AIを導入しないための材料探し」になりやすいのではないかと思います。

多くの場合、業務において生成AIを利用する(したい)従業員はIT部門以外の部署に所属しているはずです。そして、業務においてどんな風にAIが使えるか?というアイデアは、その業務を担当しているユーザーから多く出てくるはずです。
現場ユーザー不在で作ったシステムやアプリがどんな結果を招くか、というのはITエンジニアであれば規模の大小を問わず経験していると思いますが、生成AIの導入に関しても同じことが言えます。
IT部門が非機能要件ばかりを検証していても、AIの導入による業務改善は訪れません。


シャドーAIの問題

前述のような状況で生成AIの導入がなかなか進まない場合、どんなことが起こるでしょうか。

まず想像できるのは「従業員が従来のやり方で業務を遂行するので生産性が向上しない」というものですが、"現状から何も変わらない"という意味では大した問題ではないように思います。
現在もっとも注意しなければならないのは、組織が関知しないところで従業員が勝手に生成AIサービスを業務利用しはじめる「シャドーAI」の問題です。

これまでも組織が正式に許可していないアプリやデバイスを利用することで情報漏洩などのリスクを抱えてしまう「シャドーIT」という問題がありましたが、シャドーAIも広義ではシャドーITの問題に含まれます。
ただし、生成AIサービスに業務情報を流すと、それが送信先のAIの学習に利用される可能性が高く、これまでとはまた少し質の異なる情報漏洩の問題が浮上します。
このような状況を防ぐには、組織として正式になんらかのAIツールを導入し、従業員が自由に利用できる環境を整備することが重要です。

生成AIを導入する上で「どのようなガードレールを設けるべきか?」という議論も出ると思いますが、「利用してよいAIツールを組織として整備すること」が第一のガードレールになります
もちろん、いくつかの「やってはいけないこと」を定義しておく必要はあると思いますが、まず従業員がAIを利用できる環境を用意し、利用シナリオと効果を検証しながら、それと並行して詳細な利用規定を整備していくのが現実的ではないかと思います。


Microsoft 365 Copilotを導入するメリット

ここからは宣伝のように見えるかもしれませんが、上記のような課題をある程度クリアしつつ、従業員がAIを利用できる環境を素早く用意するという点ではMicrosoft 365 Copilotは非常に優れた製品だと思います。(以降、Microsoft 365をM365と記載します)

M365 Copilotは、Word/Excel/PowerPoint/Outlook/Teamsなどおなじみの業務アプリに統合され、組織のメール・ファイル・会議情報などの文脈を理解してユーザーを支援します。
すでにMicrosoft 365を導入済みであれば、M365 Copilotを追加することで、既存の環境にシームレスに組み込むことができます。


Microsoft 365 Copilotでクリアできる非機能要件

先に記載した非機能要件を例に、M365 Copilotを利用することで何がどのようにクリアできるか見てみましょう。

どのモデルを採用するべきだろうか?

M365 CopilotはOpenAIのGPT‑4 Turboを使用していましたが、2025年12月8日までにGPT‑5への切り替えが完了しています。
モデルが固定されることをデメリットに感じるかもしれませんが、「モデルの選定」をMicrosoftに委ねることで、検証プロセスや結果を左右するファクターを減らせるという効果が期待できます。

送信されたデータは生成AIの学習材料になるのではないか?

「M365 Copilotでは顧客データをモデルの学習に使わない」ということがMicrosoftの公式ポリシーとして明記されています。

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また、データはM365のテナント内で処理され、個別のプロンプトや応答はユーザーのテナント外には保存されません。

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ITリテラシーの低い従業員の教育をどうすればいいか?

複雑な操作が不要、かつ自然言語で操作できるため、導入検討時に「ITリテラシーが低い」とされていたユーザーほどCopilotの利用頻度が高いという事例もあるようです。

生成AIを使う上でどのようなガードレールを設けるべきか?

「生成AIとの対話を通して、その従業員が本来見るべきではない情報にアクセスできるのではないか?」という懸念が大きいと思いますが、M365 Copilotは「ユーザーが元々アクセス可能なデータ」に関してのみ回答するよう設計されています。
ただし、意図せず過剰なアクセス権が設定されているとそこから情報が出るリスクがあります。
M365 Copilotそのものはセキュリティソリューションではないため、SharePointのアクセス権を精査するなどの対策は継続的に必要となります。
どう進めたらいいのか迷ったときはCopilotに相談しながら進めることもできます。(ただし、最終的な意思決定は人間が行ってください)

運用コストを抑えるにはどう使えばいいのか?

M365 Copilotは月額固定制のサービスなのでコスト予測が容易です。
従来よりも低価格に抑えられた中小企業向けのM365 Copilot Businessが2025年12月から利用可能になり、導入の初期障壁も下がりつつあります。

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コストをどのようにとらえるか

M365 Copilotを導入したからと言って、すぐに生産性が向上するかというとそんなことはありません。(そもそも、何をもって「生産性が向上した」と判断するかにもよりますが)

導入したらすべての従業員が一斉に使い始めるということも現実的には考えにくいですが、AIツールに対して熱意の高い従業員がCopilotを利用することによって生産性が1%でも向上したとしましょう。 この1%の生産性向上を実現するために、新しい従業員を雇用したり、外部委託したりという従来の手段を取った場合のコストはどれほどの規模になるでしょうか。

M365 Copilotを利用するということは、従業員ひとりひとりにアシスタントをつけるようなものです。そのためのコストが月額3000円程度(M365 Copilot Businessの場合)というのは破格と言ってもいいかもしれません。

とはいえ、いきなり全従業員にM365 Copilotのライセンスを与えるのはコスト的に難しいと思います。
ですが、M365 Copilotはユーザー単位のライセンスなので少人数でスタートすることもできます。
さらに組織変更や採用と異なり、AIツールは効果がなければやめることができる可逆的な投資とも言えます。
M365 CopilotはM365のアドオンライセンスであるため、Copilotの利用をやめてもM365自体はこれまで通り利用することができ、業務への影響も限定的です。


AIツールの本当の価値は「時間削減」

AIを導入するという話になると「AIに仕事を奪われる」という議論がいまだに巻き起こります。
しかし、実際には「AIが仕事を奪う」のではなく「AIが作業を担う」のです。
仕事の中心には依然として人間がいて、人間からの指示をうけてAIが作業を行います。

これによって生まれるのは「人間の作業時間の削減」です。
作業時間の削減がそのままコスト削減につながるケースもあれば、そうならないケースもあると思いますが、「AI導入⇒コスト削減」から「AI導入⇒時間削減」という風に視点を変えてみると、また違った景色が見えてくるのではないでしょうか。


AIツールが生み出す心理的安全性

生成AIの最大の特徴は、自然言語で操作できることにあります。
複雑な操作がなく、マニュアルを読み込んだり、手順を覚えたりする必要もないため、利用する際の心理的なハードルが低くなります。
自然言語が持つ曖昧さゆえの難しさもありますが、AIツールの利点は「何度同じことを聞いても怒らない」「まとまっていない考えを投げても受け止めてくれる」点にあります。ユーザーの指示に不明点があればAI側から質問し、要求の内容を整理することができます。

さらにM365 Copilotには「メモリ機能」が搭載されており、ユーザーが誰とどのような仕事をしているか、どのような文体の応答を好むかなどを学習します。
この機能によって、Copilotは使えば使うほどよりパーソナライズされた応答を返すようになります。

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この「自分のことをよく知っていて、怒らない壁打ち相手」が常に身近にいることが、従業員の心理的安全性を支えることに繋がるのは間違いなく、組織でAIアシスタントを導入する一番のメリットではないかとすら思います。
先に触れた「ITリテラシーが低いと見られていたユーザーほどCopilotの利用率が高い」というのはまさにここに起因していて、AIが業務ITスキルのボトムを押し上げる可能性すらあると感じます。

似たような話題について、当社の井上が営業担当の視点から書いていましたので、併せてお読みいただけたらと思います。

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最後に

もしお時間が許すようであれば、この記事の"AI"の部分を"IT"に置き換えて読んでみてください。ほとんど違和感がないばかりでなく、議論の本質は"IT"が企業に導入され始めた頃から大して変わっていないことにお気づきになるのではないでしょうか。

AIは新しいITツールです。これまでのITツールと同様に「ただ導入した」だけではうまく行きません。
「AIだから魔法のように解決する」という期待を持つのではなく、ITツールとして「何のために、どのように使うか」を地道に設計することが重要なのだと思います。


最後までお読みいただきありがとうございました。


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