こんにちは、先日親戚の家に遊びに行ったときに、そこの飼い犬と遊んでいる娘が「でれーん、でれーんして!」と言っていて何事かと思ったら「伏せ」と言いたかったようで、キョトンとした犬の表情が印象的だった木村です。
さて、先日開催された AI Engineering Summit Tokyo 2026 に参加してきましたので、その内容をまとめてみたいと思います。
AI Engineering Summit Tokyo 2026 とは
今回参加したのは、ファインディ株式会社が主催する AI Engineering Summit Tokyo 2026 です。
AIエージェントを「使う」「創る」「推進する」をテーマに、OpenAI、Microsoft、Google Cloud、Cognition AI をはじめとした国内外の企業が集まり、AI時代の開発や組織運営について知見を共有する大規模カンファレンスです。
2026年6月8日〜9日の2日間にわたり、東京・浜松町で開催されました。
ai-engineering-summit-tokyo.findy-tools.io
なお、イベントは2日間開催でしたが、この記事では Day1(6月8日) の内容を中心にまとめています。
Day2も非常に面白いセッションが多かったため、そちらは別の記事としてまとめる予定です。
私が1日目に参加したセッションはこちらです(敬称略)。
- オープニングキーノート: Transforming the enterprise with FDE(水越 将巳,Ryan Cain / OpenAI Japan)
- Gemini Enterprise Agent Platformで実現する「本番仕様」のAIエージェント開発(中村 一成 / グーグル・クラウド・ジャパン合同会社)
- 組織でAIプロダクトを作るには: AI Enabling Unitの取り組み(須藤 郁弥 / 株式会社estie)
- noteのレコメンド開発を支えるAIエージェント活用(漆山 和樹 / note株式会社)
- AIが実装する時代に、プロダクト価値は誰が生むのか?(木村 衆平 / 株式会社サイバーエージェント)
- TiDB製品群から学ぶAIエージェントが加速するプロダクト開発と組織変革(関口 匡稔,TONG MU / PingCAP株式会社)
- AWSではじめよう!弊社専用のモダンAIエージェント構築(御田 稔(みのるん) / KDDIアジャイル開発センター株式会社)
- 価格.comをAI駆動で全面刷新(京和 崇行 / 株式会社カカクコム)
- 開発チームのキャパシティを10倍にする方法(シバタ アキラ / Cognition AI)
- What do you build when you can build anything?(Microsoft / Scott Hanselman)
いずれのセッションも非常に興味深かったのですが、1日を通して聞いているうちに、ある共通したテーマが見えてきました。
それは、
AIで作れる量が増えるほど、本当に重要になるのは技術ではなく 「意思決定」と「組織設計」なのではないか
ということです。
本記事では、参加したセッションの中から特に印象に残った内容を、このテーマに沿って整理してみたいと思います。
なお、今回触れられなかったセッションやDay2の内容については、別記事でまとめる予定です。
AI活用は「実験」から「価値創出」のフェーズへ
オープニングキーノートでは、OpenAI Japan の FDE(Forward Deployed Engineering)の取り組みが紹介されました。
印象的だったのは、
AIを便利なツールとして導入するのではなく、業務そのものを再設計する
という考え方です。
生成AIを触るだけなら短時間で実現できますが、実際には、
- データやコンテキストが足りない
- 信頼性やガバナンスが不足する
- プラットフォームが標準化されていない
といった理由で、本番業務に組み込んでも期待した価値が出ないケースが少なくありません。
また、AI導入の最大の障壁は技術ではなく組織や体制である、という話もありました。

これは多くの現場で実感されていることではないでしょうか。
OpenAIの両氏はDay2のラストキーノートでも再度登壇され、実際の取り組み内容もより詳しく紹介されていました。そちらはDay2のまとめ記事で触れようと思います。
どの会社も「評価」と「観測」に力を入れている
今回のイベントで特に印象的だったのが、どの企業も「AIをどう評価するか」を非常に重視していたことです。
グーグル・クラウド・ジャパンのセッションでは、Gemini ENterprise Agent Platform という、AIエージェントの開発・運用を支援するプラットフォームが紹介され、その中で
- Agent Runtime
- Model Armor
- Evaluation
- Observability
といった仕組みが紹介されていました。
特に興味深かったのは、
正解が存在しないf質問に対しても品質を継続的に監視する
という考え方です。
また評価指標についても、単なる「質問に対する正答率」ではなく、
- 収益
- コスト
- ROI
といったビジネスメトリクスを重視している点が印象に残りました。

つまり、AIが賢く動くこと自体が目的ではなく、その結果として事業価値が生まれているかを確認することが重要だという考え方です。
これは他のセッションでも繰り返し語られていました。
「AIで何をするか」を組織で共有できるか
estie の AI Enabling Unit の話も非常に興味深いものでした。
AI活用を全社へ広げるために、
- AI実装を集約したリポジトリ
- 全社へのヒアリング / 相談窓口の設置
- 実験デー
などを整備してきたそうです。
実験デーはユニットで導入されている制度で、週に1日だけ各々が興味のあることに取り組める日を設けているということでした。
その中で得られた学びとして挙げられていたのが、
「AIで何をするのか」の共通認識が重要
ということでした。
技術そのものよりも、
- どんな課題を解決するのか
- どんな価値を出したいのか
を揃えることが先に必要になる。これはAIに限らず、ソフトウェア開発全般にも通じる話だと思います。
個人的には、「それChatGPTでよくない?」と言われるのに対してどう回答するかが大変だったというお話が印象的でした。ChatGPTがUIも分かりやすく、すぐに使えるため、社内でAIを活用する際に「それChatGPTでできるんじゃない?」と言われるというのはあるあるな課題だなと思いました。

AIで加速した開発で、価値はちゃんと届けたい相手に届いているのか
noteのセッションでは、AIエージェントを活用してレコメンド機能の開発を加速させた事例が紹介されていました。
その中で特に印象的だったのは、「AIで開発速度は確かに速くなった。しかし、価値はちゃんと届けたい相手に届いているのか?」という問いかけでした。estieのセッションで言われていた「どんな課題を解決するのか、どんな価値を出したいのか」もまさに同じことを言われていると感じました。
エンジニアはつい技術先行で「この技術を使いたい」「こういう機能を作りたい」と考えがちですが、そもそもソフトウェア開発を事業として捉える場合、そこで大切なのは「お客様に価値を届ける」ことです。我々エンジニアが作りたい気持ちや作ることに誇りを持つことは大切ですが、それが目的ではありません。極端な話、何も作らずに最短ルートでお客様に価値を届けられるならそれで十分とも言えます。
これは私自身が何度も社内でも代表の小島を始め多くのメンバーに指摘され、気をつけている視点でもあります。
そして、noteの取り組みの中で語られた「意志決定や責任は人間が持つ」「もっともらしい分析に注意し、結論と推論は必ず検証する」というのは非常に大切な、説得力のある言葉だと感じました。

AIが実装するなら、人間は何をするのか
サイバーエージェントのセッションでは、
仕事は実装から意思決定へ
という話がありました。
AIがコードを書くようになると、
- 実装速度
- 生成量
- 開発効率
は大きく向上します。しかし実際には、
- 業務に組み込まれない
- 利用率が伸びない
- KPIが改善しない
というボトルネックが残ります。
つまり、
作れることと価値を生み出せることは別
ということです。
この話は個人的にもかなり刺さりました。noteのセッションでは「価値は届いているか」という表現をされていましたが、同じことを主張されていると感じました。
AIによって開発速度は確実に上がっています。
一方で、「何を作るべきか」を決める難しさはほとんど減っていません。
むしろ実装コストが下がることで、意思決定の重要性は以前より高まっているように感じます。

AI時代でもクラフトマンシップは消えない
最後の Scott Hanselman 氏のセッションも印象的でした。
その中で語られていた、
ツールが変わっても技能は死なない
という言葉がとても良かったです。
AIによって多くの作業は自動化されていきます。
しかし、
- なぜそう設計したのか
- なぜその判断をしたのか
- どうやって他人に説明するのか
といった能力は依然として重要です。
また、
シニアエンジニアはジュニアエンジニアを育てる責任がある
という話もありました。
AIが便利になるほど、人間側が学習しなくても成果物が出てきます。しかし、それだけでは知識や経験が積み上がりません。
これをHanselman氏は「シニアエンジニアにとってAIはBoostだが、ジュニアエンジニアにとってはDragだ」と表現されていました。
以下はセッションで紹介された、Haselman氏がMark Russinovich氏(Microsoft AzureのCTO)と共同で提出された論文です。皆さんも機会があれば是非ご一読いただければと思います。
AIを活用しながらも、学び続ける仕組みをどう作るかは今後の大きなテーマになりそうです。

まとめ
今回の AI Engineering Summit Tokyo 2026 を通して感じたのは、
AI導入の課題は技術そのものではなく、組織・運用・意思決定へ移りつつある
ということでした。
どの企業の事例を聞いても、
- ガバナンス
- 評価
- 観測
- 組織設計
- 教育
といった話が必ず出てきます。
そして AI が実装を担うようになるほど、人間は
- 何を作るのか
- なぜ作るのか
- どう価値に変えるのか
を考えることが求められます。
最近は AI がコードを書くこと自体に注目が集まりがちですが、本当に重要なのはその先なのかもしれません。
AIによって実装コストが下がった世界で、どこにボトルネックが移るのか。
今回のイベントは、そのヒントをたくさん得られる一日でした。
そう考えると、AI時代に求められるのは「コードを書く人」ではなく、「価値を届ける仕組みを設計する人」なのかもしれません。
なお、今回は Day1 の内容だけでもかなりのボリュームになってしまったため、Day2 については別の記事でまとめようと思います。
皆様の参考になれば幸いです。
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